しなやかで弾力ある心のための「レジリエンス」

2020年5月12日

レジリエンスの鍛え方 久世浩司 実業之日本社

最近、レジリエンスという言葉を聞くことがあります。もともとは物理学用語だったようで、「反発性」や「弾力性」を示します。

そこから、外力が働いて少しへこんでも、「また元に戻る力」という意味で、人間の性質の一つとして心理学において使われるようになったようです。「打たれ強さ」といったところでしょうか。

生きていると様々な困難や逆境があります。そういったことによって、一度はへこんだり落ち込んだり、つぶれたりしても、また元の自分に戻る回復力のことです。

人間の、困難に立ち向かう能力としては、「忍耐力」や「問題解決力」など、受動的に耐える力や、積極的になんとか解決して乗り越える力が考えられてきました。

しかし、どんな問題も解決できるわけではなく、ときには打ちのめされてしまうこともあります。

そうした状況で「心が折れて」しまうといった不可逆的な状態に陥ってしまうのではなく、しなやかに適応して生きていくことです。

場合によっては、困難の前よりも、少し強い精神になっているのかもしれません。身体の骨格や筋肉がトレーニングによって、強さとしなやかさを向上させるように。

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今回ご紹介するのは、このレジリエンスに関する本です。著者はポジティブ心理学をビジネスの場に生かす人材育成を勧めておられ、日本を代表するレジリエンスの研究者です。

この本の他にも、「リーダー」として職場や部下とともにレジリエンスを考えるための『リーダーのための「レジリエンス」入門』や『マンガでやさしくわかるレジリエンス』なども出されています。

ま、生きていれば必ず問題は起こり、困難に直面します。そういった場面で、へこんで立ち直ることが、成長の“バネ”になります。

レジリエンスについて勉強するとともに実践でも意識して、心のバネをしなやかに、簡単には折れないようにしましょう。

レジリエンスでは、失敗や困難な体験でネガティブな感情が生まれたら、無視することも抑圧することもせずに、まずは感じ取ることを大切に考えます。これを「感情認知」と」いいます。

(P60)

本書ではレジリエンスを養うための7つの技術が述べられています。以下の通りです。

  1. ネガティブ感情の悪循環から脱出する!
  2. 役に立たない「思い込み」をてなずける
  3. 「やればできる!」という自信を科学的に身につける
  4. 自分の「強み」を活かす
  5. こころの支えとなる「サポーター」をつくる
  6. 「感謝」のポジティブ感情を高める
  7. 痛い体験から意味を学ぶ

困難に直面したり、失敗したりすると、ネガティブ感情が瞬時に沸き上がります。後悔もその一つかもしれません。そういったネガティブ感情は、いつまでも持っていると精神的にも身体的にも良いものではありません。

ネガティブ感情が発生するのはしかたないことですが、後悔については以前も述べましたが、発生したとしても、いつまでも考えて保持しないことが大切だと思います。

まずは、そういった感情があるということを感じ取り、受け入れ、客観的に見ることで長々と保持して悪循環に陥ることを防ぐのが大切です。

そのためには、「気晴らし」として運動、呼吸、音楽、筆記などが有用とのことです。歩いたり、走ったり、トレーニングをすることで、気分がリフレッシュします。

かるくジョギングなどして息が少しあがると、さっきまで持っていたネガティブ感情が、どうでもいいことに感じられることもあります。

呼吸に集中して、過去の後悔や未来の心配ではなく“今ここ”に集中するのがマインドフルネスです。マインドフルネスは、現代人が修得しておきたい生きる知恵の一つだと思います。

人間にとってメリットしかない大切な活動として、運動、瞑想、読書が言われています。こういったレジリエンスのためにも、これら3つの活動はメリットがあるのだと思います。

私たちは「ありがたい」という気持ちで出来事に接したときに、それが特別で当たり前のものではないと感じ、すべてが新鮮に感じます。その新鮮さが順応を防ぐのです。

(P205)

第六の技術として、「感謝」のポジティブ感情を高める、ということが述べられています。

「感謝」の感情にはさまざまなメリットがあり、幸福度を高める、ネガティブな感情を「中和」させる、身体の健康につながる、思いやりが生まれる、そして前向きでいられる、といったものです。

そういったメリットもありますが、あえて困難や逆境も「ありがたい」と感じて、自分の成長の糧にしようとする気持ちが、最強の考え方だと思います。

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森信三先生も、こうおっしゃっています。

諸君も今から気をつけて、弾力のある人間にならなければ駄目です。ところで弾力のある人間になる最初の着手点は、何といってもまず読書でしょう。ですから、若いうちから努めて良書を読むことです。また若いうちは、文学や詩歌など大いに読むがよいでしょう。また短歌や俳句などに趣味を持つことも大切です。

(森信三 『修身教授録』 P39)

私は文学や詩歌は、あまり読まない方です。しかし、ときどき小説などを読んでみると、作中の主人公の人生も少し経験させてもらうことができます。

そうすることで、様々な困難や逆境にどのように対応していくかを知り、自分にも少し知恵を分けてもらえる気がします。

そういった意味でも、文学や詩歌に親しんで、人間としての生き方に「弾力」を持たせることも大切かと思いました。

まあ、私はどちらかというと、弾力というよりは「適当にかわして受け流す」、あるいは「左の耳から入った言葉が右の耳から抜けていく」という感じかもしれませんが・・・。

トレーニングの分野において「超回復」という言葉もあります。筋力トレーニング後にある程度の休息をとることによって、筋肉量がトレーニング前よりも増加することをいいます。

まあ、あえて「レジリエンス」というカタカナ語を持ち出さなくても、昔から「逆境をバネにする」だとか「困難を踏み台にする」など、へこんでもさらなる成長をもって盛り返すことは言われていたと思います。

そうではありますが、とくに、困難や逆境に「へこまずにポジティブでいこう」というのではなく、「へこんでも、また戻って以前より成長しよう」という点を強調する言葉なのだと思います。

困難や逆境は成長のチャンスでもあります。それを避けるのではなく、「弾力:レジリエンス」を持って、多少つぶれてもその後に、以前より強くなれればいいと思います。

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