読書は自分のためならず

2020年3月29日

書斎の鍵 喜多川泰 現代書林

過去とその後遺症が、現在の生き方に影を落としている主人公。夢や希望を“働く原動力”に変える優秀な新入社員。

『書斎のすすめ』という本でわずかにつながっていた二人は、さらに深いつながりによって結び付けられていた。

「過去」を逃げ場にして「現在」の実行性粉砕に用いるアドラー心理学でいう「目的論」も垣間見える。

そして、「読書の大切さ」が非常に協調されている作品でもある。

本、読書が自分の世界を変え、それにより周囲を変える力があるということが、よく伝わる作品である。

この「読書をして勉強することが、自分のためだけではなく周囲の人のためになる」という考え方は新鮮であった。

小説のなかに『書斎のすすめ』という別の本のような部分が入っている構成も面白い。

著者の喜多川氏は自己啓発小説として多くの小説を著している。他にも多数の心に響く作品があるので、ぜひ読んでほしい。

「俺が俺の人生を幸せに生きることでしか……救えない」

この若者の苦しみを取り去ることができるのは、自分しかいない。

浩平が、自分の負った心の傷から立ち直り、運命を受け入れたうえで新しい人生を始める勇気を持ちさえすれば、一人の有能な人間の人生が救われるのだ。(P126)

過去の事故により障害を負った主人公は、そのことにより希望する職場をあきらめ、目標の見えない生き方をしていた。

しかし、自分が気づかないような周囲とのつながりは存在し、ある意味で期待されていることも感じる。

そして、その期待に応えるというわけではないが、周囲の人を幸せにするためには、自分が幸せになるしかないと気づく。

おそらく人は、自分がどの程度周囲に影響を与えているか、自覚することは難しいのだと思う。

意外と、知らないうちに影響を与えていることもあるし、思わぬつながりが形成されているのだ。

「読書の習慣がある○○と、ない○○では、人生において感じ取る幸せに大きな開きがあると同時に、周りの人を幸せにする能力も、受け取る報酬も大きく異なる」

この○○の中には、何をいれてもいいわけです。公務員、先生、アルバイター、大工、美容師、母親、学生、受験生、サッカー選手、隣人、医者、患者、役者、日本人……。(P160)

とくに経営者には読書をしている人が多い。難解な検討事項をいかに数字のうえでの調整や機械的な処理ではなく、会社の皆が幸せになるように処理するにはどうしたらいいか。そこで必要なのは、人間を考えた思考である。

読書は才能ではなく習慣である。これはなんでもそうであり、早起きでも小食でも運動でもそうだ。習慣は、もともとできるのではなく、ある程度最初は大変だががんばって続けていると、次第に身についてくる。

読書という習慣によって思考を作り出す。思考は心の一部と言ってもいいだろう。思考・心はさまざまな場面で役にたつ。

そのため、思考・心の習慣を良くすることが、より良い人生につながる。読書をして心の栄養をつけることが重要である。

読書は、人間として活きるのに必要な人と人との間の潤滑油である。

どんな肩書でもいい、読書は「人間」である限り必要なものである。

夫や妻が、もしくはお父さんお母さんが、昨日と違う自分になる「努力を嫌がる人」なのか、「率先して努力する人」なのかによって、共に生きる家族の人生が大きく変わるということは、まぎれもない事実なのです。

ですから、「勉強は、将来出会う大切な人のために、少しでも頑張っておけ。そして、愛する人を守るためにも勉強が好きな人になろう」、こう言われたほうが断然やる気が出ます。そういう生き方が、ひいては自分の幸せになっていくのです。(P208)

勉強を「自分のため」と考えると、ときどきイヤになりさぼったりする。もちろん義務のように考えてガチガチにする必要はないが、ここはひとつ、周囲の人のためと考える。

子どもにも言ってあげていい言葉だと思う。勉強すれば「将来周りの人を幸せにできるよ」と。

本を読むことは最高の勉強である。もちろん「真実は現実の唯中にあり」という森信三の言葉を知らなければならない。読書で得た知識は常に現実と照らし合わせて磨くべきである。

勉強してあなたが幸せであることが、誰かを幸せにしている。妻や夫、子どもや両親など家族かもしれない。職場の同僚、後輩や上司かもしれない。

自分が幸せになることがあの人を幸せにすると考えるのだ。

「事故のせいでも、右手のせいでも、営業に不向きだと思い込んでいる持って生まれた性格のせいでもありませんでした。すぐにそこに逃げ込む、心の弱い自分のせいだったと、ようやく気づいたんです。そのことを、加藤に教えてもらいました」(P237)

アドラーのいう「目的論」におぼれてはいけない。「過去」を現在の足かせにしてはいけない。

とくにそういった逃げ場に閉じこもり、本人がぐずぐずしているだけならまだしも、そのことによって周囲の人もどう付き合ったらいいか分からず困ってしまうようでは困る。

自分が、逃げ場から這い出すことにより、親愛する周囲の人が幸せになれるとすれば、ぜひそうしよう。

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