職場での教育のあり方

2020年1月5日

小さな会社でぼくは育つ 神吉直人 インプレス

後輩の教育をどのようにしていったらいいのだろうという上司、指導者の方。逆に指導を受ける側の新入社員、研修医をはじめとする新人の方。その両方ともに読んでほしい本です。

職場における教育を軸とした先輩・後輩のあり方、職場の雰囲気をどうしたらいいかを考えることができます。

指導・教育といっても、決して上から下への一方通行ではありません。後輩の教育を通した自分の教育、成長もあります。先輩と後輩の両方向性のものなのです。

この本では中小企業を舞台として書いていますが、内容はどんな職場でも当てはまります。職場での先輩、後輩の関係もそうですが、社会の中で働くとはどういうことなのかも考えさせられる一冊です。

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人数が少ない職場であり、一人一人が機能しなければならない以上、中小企業に勤める若者は(おっちゃんでもいいけど)、ある程度自力で、戦力と認められるレベルまで成長する必要がありそうです。あえて水泳にたとえるなら、準備運動から始めるのが大企業であるならば、準備運動くらい自分でやってね、というのが中小企業と言えるでしょうか。(P39)

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大企業では研修期間があったり、医師の場合も研修医として(かなり一人前の医師に近く扱われますが)、正規の職業人として働く前の期間があります。

最近の企業は、大学卒業時点で即戦力となる人材を求めてる風潮もあるようですが、現時点の多くの大学にそのような能力はないでしょうし、大学自体もそういった社会で即戦力になるような人材を育成する機関ではないと思います。

研修でも、マンツーマンの指導でもいいですが、ある程度仕事を覚えてもらうまでは、上司も辛抱のしどころでしょう。

中小企業では、おおがかりな研修制度がないことが多いようで、新入社員が自分でなんでも勉強しようとする必要があるようです。ただそれは、中小企業に限らず大企業でもそうだし、覚えることの多い医師の世界でも同様です。上からの指導・教示を待っているだけではいけません。

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また、日本電産創業者の永守重信氏(現・会長)が重視していることの中に、「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」という言葉と6Sがあります。

6Sは、経営管理においてよく掲げられる5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)に、作法を加えたものです。(P45)

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森信三先生もおっしゃっております。職場再建の三原則:時を守り、身を正し、場を清める。

つまり、なにごとも時間はきちんと守り、これは開始時間や待ち合わせの時刻もそうですし、会議や手術などの所要時間もそうでしょう。見た目の清潔もそうですが、笑顔などから身の内の心持ちまで、すっきりとさせる。そして、職場環境の整理・整頓・清掃です。

これらは、しっかりやることで環境や見た目もきっちりしますが、そうやっている当人もきっちりするものだと思います。

以前から思っていましたが、食器洗いをしたり雑巾がけをしていると、自分の手もきれいになってきます。そういうものです。

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「まずは」身につけたい能力って何だろう

松尾先生は、これに関連して、ロバート・カッツというアメリカの経営学者による「熟達につながる三つの能力」というコンセプトを引用しています。それは、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの三つの能力です。

テクニカルスキルとは、仕事を円滑に進めるために必要となる、専門的な知識や技能をいいます。

ヒューマンスキルは、他者とコミュニケーションしたり、集団を統率したりする力であり、人間関係を構築する力と説明もされます。

コンセプチュアルスキルは、組織を取り囲む環境の動きを察知し、戦略的に物事を考える力のことをいいます。抽象的な感覚を言語化したり、概念化したりしていくことでもあります。皆が漠然と肌感覚としてはわかっているけど、うまく言葉にできないことをびしっと表して共有を進めることは、リーダーに必須のスキルです。いつか必ず身につけたいところですが、「まずは」の段階で求められるものではありません。(P49)

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テクニカルスキルは職業上の技術や知識など、ヒューマンスキルはコミュニケーションや共感、思いやりなど、そしてコンセプチュアルスキルは俯瞰的な見方で現状を観察し、具体的事象の抽象化、コンセプト化を行う能力でしょうか。

技術・知識といったテクニカルスキルは仕事を進めるうえで必要ですが、「人間」を相手に仕事を進めるためにはヒューマンスキルは欠かせないものです。

これまでの職業スキルではテクニカルスキルが重視される風潮が強かったのではないかと思います。技術一辺倒ではどうにもならない問題、たとえば消費者サービスの問題や商品偽装問題などの問題などが起こり、よりヒューマニティーが求められています。

とくに医師の世界ではさまざまな「病気」という、弱い状態に陥った「人間」を相手にする職業ですから、しっかりしたテクニカルスキルを身に着けるのはもちろんですが、ヒューマンスキルの占める割合も大きいものです。

さらに、ヒューマンスキルはAIには不可能なスキルだと思います。AIの台頭でさまざまな職業の存続が危ぶまれています。しかし、ヒューマンスキルを生かす仕事は、今後も必要とされます。

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百パーセント理想の状態でないのは、たしかに環境のせいかもしれない。だが、そのなかで百パーセントの力を発揮しないのは、自分自身のせいなのだ。(P63)

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うまくいかないことは必ずあります。しかし、それを他人や環境のせいにしていては、なんの得ることろもありません。

自分の人生は、自分が作る。その方向も、内容も。

うまくいかないことからも何か学びたいものです。なにか学ことはないかと考えるうえで、自分がどうすれば良かったかなど、まずは自分が「引き受ける」という考えが、良いと思います。

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先輩に、忙しい中でも「協力してやりたい」「教えてあげたい」と思わせるような、かわいげのある後輩でいることは大切な構えとなります。

かわいい後輩とは、ご機嫌取りに精を出す“うい奴”では決してありません(中にはそういう後輩を求める人もいますが)。歯が浮くようなおべっかではなく、自分で考えた意見を言うなど、前向きな姿勢を見せる後輩のほうがかわいく見えるものです。そして、ときには質問することも必要です。(P99)

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内容にもよりますが、どんな職業でもある程度の期間は、教えてもらうことが、自分で勉強するよりもはるかに効率がいいことがあります。

例えば、職場の人間関係(どの上司が怖いとか、どの人に聞くとよく分かるなど)や、教科書には載っていない技術上のtips、そしてある程度「背中を見る」ことでしか得ることのできない、いわゆる「暗黙知」。

教えてもらうほうが、しっかりと吸収しようと構えているることも重要ですが、上司から見ても「教えてあげたい」と思われるような後輩であってください。

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「指示待ち地蔵」にならず、先輩がつい教えたくなるほどにかわいげのある存在であるためにはどうすればいいのか。そのキーワードは、主体性です。

神戸大学医学系研究科の岩田健太郎先生によれば、主体性があるとは、まず、“自分の力で問題を見つけ出す”ことができ、“その問題と組み合う”中で、“問題に関する自分自身の見解を持つ”ことができるという、能動的な状態です。また、主体的であるとは、思考停止に陥らないことであり、思考停止からの脱皮が主体性の必要条件となります。(P102)

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仕事を始めて、「社会」や「人間」、医師であれば「患者さん」や「病気」といったモヤモヤした”得体のしれない”ものを相手にすることによって、これまで勉強してきた試験問題の知識では、どうも対応していくことが難しいと感じます。

これからは、試験問題のように与えられ、正答の決まっている問題を解いていくことが仕事ではありません。問題を作り出すこと(問題を起こすことではありません。念のため)、つまりそのモヤモヤした相手に”とっかかり”をつけることが重要です。

ときには答えのない問題かもしれません。そういった問題のほうが多いかもしれません。

そうであっても、「“その問題と組み合う”中で、“問題に関する自分自身の見解を持つ”ことができるという、能動的な状態」を維持することが重要です。

それが、どのような仕事をするうえでも重要なことの一つ、「主体性」につながります。

『主体性は教えられるか』の紹介記事もご参照ください)

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むしろ、若手は、積極的に職場の雰囲気への貢献に努めてみましょう。(P126)

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貢献感という考え方があります。アドラー心理学の重要な要素だったと思います。仏教でいう「慈悲」にもつながるでしょう。

環境に身を置いて、自分を成長させようという受動的な態度ではなくて、自分も周囲の環境に働きかけて良くしていこうと、積極的にかかわることが、逆説的に自分の成長につながると思います。

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後輩への指導は、自らのノウハウの棚卸し

そして、次のように考えることもできます。教えなければならない後輩の存在は、コミュニケーションの必要に迫られるという状況を生みます。後輩をはじめ、誰かに何かを説明する際には、自身の感覚の言語化も含めて、勘所など伝えるべき内容を的確にまとめなければなりません。この状況の要請に応えた伝達事項の整理は、後輩の指導よりも、むしろ自分の成長に効くのです。(P196)

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後輩のおかげで自分の成長が促される。

非常に実感します。優秀な後輩が出現すると、自分もおちおちしていられないと感じます。そして、そういった後輩も含めてコミュニケーションをとり、自分のこれまで得てきたノウハウを伝えるために、自分の中で”棚卸し”をする必要が出てきます。

そのことが、さらに指導する側の足場を固め、成長につながると思います。

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いやはや、最近も優秀な後輩が出てきていますので、私も自身の成長とともに、彼らにも教えられることは伝授していきたいものです。

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