「このままでいいの?」 岩田麻央 みらいPUBLISHING
変化には二種類あり、変わることと変わり続けることがあると思います。
前者はある時に一度変わり、以前とは異なる状態になること。後者はそのまま常に変わり続け、一定の状態である期間が短いことです。
人間を含む生物はどうでしょうか。
養老孟司先生は「情報とは変わらないものである」とおっしゃいました。人間についても「自分」というものがあり、それが一生涯変わらないような気もします。
「自分」もある意味、情報です。自分は何歳で、どこ出身で、身長体重はこれくらいで、どんな仕事をしていて何が好きで、趣味は何で。どこどこの学校を卒業したなど。
もちろんそういった情報は変わりませんが、生物体としての人間は日々変わり続けています。時間経過とともに歳をとり、身体も能力も考え方も変わり、やがて地に返ります。
「情報」というのは、頭で理論的に考え、言葉にされ、記憶されるものだと思います。それに対して生物体としての身体や感情は理論的に考えるものではありません。それはそれで存在するものです。
もちろん、身体や感情も情報にすることができます。身長体重や体温、血圧、診察上の身体所見。あるいは感情については悲しい、嬉しい、楽しい、イヤだ、など。
でもそうすることにより、ある程度制限が生まれます。そういった言葉が必ずしも本来の様子を100%表現しているわけではないからです。
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さて、おそらくこの「自分という情報」が変わらないという誤解のもとで生きていることにより、人間の生活は苦難を得ている面があると思います。
日々刻々と変わる周囲の中で、自分は変わらないものだ、変わらないようにしよう。そこが問題です。
肉体だって、感情や考え方だって日々刻々と変わるのです。そういう中で、それに乗っかっている「情報」が変わらないと、生きづらさを感じるのでしょう。
つまりは、その時その時の身体面、精神面での変化に応じて、「自分という情報」も日々刻々と変えていく。そんな気持ちが大切なのではないかと思うのです。
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前置きが長くなりましたが、この本はそんな変化し続ける身体や精神に対して、「自分という情報」を上手く合わせていくことの大切さを教えてくれた一冊です。
けして周囲に迎合して生きるという意味ではありません。でも、周囲の変化にもかかわらず自分(?)を貫いて生きようとすることは、必ずしも好ましいことではないのです。
「自分という情報」を変えることなく、変わり続ける身体・精神に無理強いして頑張って生きていく。「このままでいいの?」そんなことを感じさせてくれた本でした。
そうではなくて、本当は「答えは、あなたの内側にあるもの」なんです。(P10)
本書の目的は何かしら知識を与えることではなく、読者の内側にある答えを導き出す助けをするものだ、と書かれています。
我々はどうしても外の知識や情報によって物事を決めるようにします。たとえば大学進学であれば大学の難易度、就職率、教育や研究のレベルなど、それと自分の学力が、進学先を選ぶ基準にされることが多いでしょう。また、就職であれば会社の評判、給与、待遇などが、就職先を選ぶ基準にされることが多いでしょう。
そうではなくて、自分が何を勉強したいか、自分が何を仕事にしたいのか、その大学や会社に入るとなると自分はどう感じるのか。そういったことが大切なのです。
我々は小学校のあたりから知識をインプットしては適切にアウトプットする訓練をしてきました。そのため、知識や考える判断基準は自分の外にあり、それを上手く取り入れて適切に判断することが大切と勘違いしています。
もちろんそれも必要です。でも進学や就職は自分の周囲をガラッと変えることですから、そこでもやはり、状況に応じて変わり続ける感情など「自分の内側にあるもの」を大切にするようにしましょう。
あなたが登っているはしごを先に登っている人を、何人かピックアップして、彼らのような人生を送りたいかどうか、冷静に考えてみましょう。(P70)
職場の上司や先輩などのことを考えて、自分が数年後にそういう人たちのように働いていたいと思うでしょうか。
バリバリ仕事ができて活躍している姿を見ればそうなりたいと思うかもしれませんし、逆につまらなそうにしていれば、そうなるのは避けたいと思うかもしれません。
そういった人たちは自分が登っているはしごの先を進んでいる人たちです。自分のはしごというストーリーを進んでいる人とも言えるでしょう。
ただし、10年先輩の人が自分の10年後の姿でもないと思います。ゲームとは異なり、経験年数や年齢といったレベルが上がるにつれて予定通りの成長や能力が得られるわけではないからです。
突然のアフリカ行き、決断したのは、「本当の僕の心」が動いたという「直感」です。(P76)
「面白そう」と「本当のあなたの心」が反応したら、直感で飛び込んでみたらいいと思います。その貴重な経験をどう生かすかは、未来のあなたが考えればいいことです。さぁ、一歩踏み出してみましょう。(P90)
心が動く、感情が動くことを感動と呼ぶのだと思います。そういった心や感情の動きが無意識的に統合されて編み出されるのが「直感」なのでしょう。
それこそ、「自分の内側にある答え」ですね。そとから仕入れた知識や情報から理論的に考えた答えではなく、自分の内側から来るもの。
一方で、選択には選択肢が必要です。選択肢に気付く、見つける、知ることも必要となります。そのためには日々の勉強、読書、日常生活や仕事から、選択肢のタネとなることを仕入れ、心の土壌を肥やしておくことが大切です。
点と点が結びつくことが事前にわかっていたのではなく、過去の経験を振り返って、点と点をつなぎ合わせることで新しいものが生まれた、ということです。(P88)
アイデアは既存のアイデアの組み合わせである。ヤングの『アイデアのつくり方』にそのように書いてありました。
私も学生への講義でいつも言っています。
「試験に出るような知識は点に過ぎない、知識を増やすことによって、つまり点を増やすことによって問題に対応できるようにする。でもその点の間をすり抜けてしまうようなつかみどころのない問題もたくさんある。むしろ試験に出るような答えのある問いの方が、少ないと言っていいだろう。
その点を点の間を埋めるものは何か。それが、一見試験には役立たないような知識であったり、別分野の話であったり、あるいは自分の思考や想像である。それらが点と点を結び付けるものなのだ」と。
まあ、こんなに立派な感じには言っていないかもしれませんが、そんな感じです。
まずは勉強や経験で点をたくさん得て並べていく。あ、そういう意味でも100点は60点よりも点が多いのかもしれません。
そして、あとは他の勉強をしたり読書したり社会経験したり自分で考えたり想像したりして、点と点の間を結び、埋めていく。そういうことですね。
「私にはまだ早い」と思っているあなた、反対です。「すでに遅いんです。」手遅れになる前に、今すぐスタートしてください。(P145)
とは言っても、基本的なことが分からないし、ちょっと勉強してからじゃないと、と何事についても考えがちです。
まあ基礎からしっかり、土台が大切、の考え方が間違いとは言いませんが、それだけでもないと思います。
私はピアノをわずかにできますが、きっかけは中学校のときの合唱コンクールです。それまでピアノは妹が家で弾いているくらいで、私はあまり触りませんでした。
ある年の合唱コンクールに自分のクラスが選んだ曲がとても気に入りました。伴奏はクラスのピアノがとても上手な人が担当しました。
その演奏を見て、あろうことか自分もできるようになりたいと思ったのです。すごく難しい(今見ても難しい楽譜でした。
右手の指の一本一本を、左手の指の一本一本を配置して変えていって、さらに両方の手を同時に動かすということを、じわじわと時間をかけて練習しました。
そうすると、べつに幼少時からピアノを習っていたわけでもありませんが、なんとなくその曲を弾けるようになったのです。
この経験は、その後も生きています。つまり、何事も基礎から地道に取り組むべき、が全てではないことを身をもって知ったのでした。
さらに、よく言われるように人生は今日が一番“若い”日です。何事も若い時に始めたほうが長くできますし上達もします。さあ、今日から始めましょう。
僕たちは、自分の頭の中のストーリーで生きています。そうですよね。人生をつまらないと思う人がいれば、人生が楽しくて仕方がないという人がいるんです。(P219)
人生に存在するのはただ、事実の連続です。その事実をどのように感覚して解釈するかは各個人によります。同じくらいの仕事でもつまらなく感じる人もいれば楽しくこなす人もいたり、ちょっとしたことも人生の転機になったりします。
事実の羅列を自分なりに感覚して捉え、自分の感情や思考を織り交ぜて、人はストーリー、物語を作るのだと思います。
そして、未来については頭で考えたそのストーリーを延長させようとすることもできます。そこに目標ができ、刻々と軌道修正されながらストーリーは進められます。
その途中で出会う様々な事実、ネガティブなこともポジティブなことも、新たに自分なりに意味づけされ、感情が付されてストーリーが続けられます。
「歴史」を考えることにも似ているかもしれません。ただ歴史は過去の事実に対していかに解釈するかということです。
自分の人生については、思うようにストーリーを展開して進めていくことが可能でしょう。
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実はこの本、初読読了は2020年8月31日であり、今回は再読してみたのでした。
やはり境遇の違いは読書にも違いをもたらします。その当時は読んでみて「ふーん」だったのですが、今は「そうだよねぇ~」でした。
人生の大きな変化を起こすためにも力強く後押ししてくれる本だと思いますし、そうではなくとも、日々刻々と変わる自分の身体や感情を大切にして生きていくために、とても良い本だなと感じました。