ウェブ講義について考える

最近、ウェブでの講義や学生実習としてのSGT(Small group teaching;数名の学生を相手に質疑応答を混ぜながらレクチャーを行う)を行った。

もちろん、新型コロナウイルス感染症の影響のためである。普段であれば100人超の学生を相手にした講義や、数人の学生と対面してのSGTを行う。

どちらも、昨今の事情により、ウェブを用いた形式となったのである。

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まず講義。これはひたすらマイクに向かって話し、100人以上の学生に対して講義を行う。面白いことに出席率としては、通常の講義よりも大変高い。

なにしろ、大学に来る必要もなく、自宅で講義を受けることができる。場合によっては食事をしながら、買い物しながらスマホで講義を聴くこともできる。(まあ、そんな学生はいないと思うが)。

こういった講義はもともと大きな講義室で行い、私のスタイルとしては特に学生に対する質問を挟むことも少ない。

100人以上の学生が相手であり、どの学生がよく聴いていたとか、どの学生が寝ていたなどは、なかなか分からない。スライドを使う関係で、部屋が暗くなるのも、眠気を誘う。

今回、マイクの向こうで学生たちがどのように聴いてくれていたかは同様に分からない。しかし、出席者がほぼ学年人数と一致していたことから、ほとんどの学生が聴いてくれたのだろう。

寝坊や体調不良、諸般の事情で欠席していたところを、どこからでも講義を聴くことができるのは、一つのメリットだと感じた。

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SGTはその反面、少人数であり、一人一人の学生の反応を見ながら進めることができる。

話の進め方としては、学生に質問をせずにしゃべり続ける形式と、質問をはさみながら進める形式があると思うが、私は質問を多用する形式である。

そのため、学生もテンポよく回答してくれないと、スムーズに進まない。しかし、学生はとまどう、頭の中で「これかな?」という答えが思い浮かんでも、それをすぐには答えない。このあたりの事情については、いつだか書いたと思う。

これをウェブで行うとどうなるか。メカニカルなことによるぎこちなさ(微妙な“間”など)はあるものの、慣れれば対面式のSGTと同様に可能であることに、少し感動を覚えた。

学生にとっては、自分側の映像を出さなければ、露骨に教科書を参照しながら答えることも可能であり、いいのかもしれない。

もちろん、学生がどのように感じていたかは分からない。今度、ウェブSGTを受けた学生がいたら、聞いてみようと思う。

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さて、「知識」は、ウェブ講義でも動画サイトでも、教科書でも伝えることができる。しかし、我々のような職業、いやほとんどの職業では「技術」の修得、練習が必要である。

内視鏡検査にしても、手術にしても、ケーキ作りにしても、そば打ちにしても、はたまた営業での接客やプレゼンスキルなどもそうだ。

手順や方法についての知識は、ウェブ講義でも伝えられるだろう。しかし、指導者の手つきや力加減、息遣いなどを目でみて感じることも必要である。

そういった方面については、ウェブ講義ではなかなか難しい。よくある「教科書で調べて自分でがんばるよりも、指導者についた方がずっと上達する」というものだろう。

また、実際に患者さんやお客さんを前にして、相手を把握しようとしていろいろ調べていると、分らないことが出てくる。それを自分で調べるというのも、いつまでも必要な能力である。

あるいは回診において指導医や、患者さんに質問され、答えられないこともある。とっさにスマホや教科書で調べ出すのも、いつでもできるわけではない。

学生にとっては、その「答えられなかった」という経験も、必要なのではないだろうか。もちろん、準備して勉強してあって答えられるに越したことはない。

しかし、学生に「何が分かっていないのかを分かってもらう」ことも、指導する側の大切な役目だと思う。

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もちろん、学友や指導者と日々接触して、会話や対話により情報や知識の授受をするのも、大切なことである。これは大学に集まらないとできない。

今のところ、ウェブのみでこれまでやってきた教育を行うのは、難しそうである。逆に、そのあたりが教育の面白いところである。

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