『キングダム』で学ぶ最強のコミュニケーション力 馬場啓介 集英社インターナショナル
私はもともとマンガを読まないほうです。それでもわずかながらハマって読破したマンガもありました。最近は一家で『鬼滅の刃』にハマっており、マンガの良さを感じています。
「マンガなんか読んでないで勉強しなさい」というのはよくある親のセリフです。たしかに一般的なマンガでは学校で習うような教科的な勉強はできないかもしれません。さらにマンガを読む時間によって、学習の時間がつぶされることもあります。
まあ、マンガの面白さを逆手にとって、教科学習を目的にした学習マンガもたくさんありますが。
でも、マンガの中には学校ではなかなか勉強できないような、いわゆる「人間関係」について大切さを感じさせてくれたり、勉強させてくれたりするものがあると思います。
そもそも、学校や大学に生身の人間が出向いて他の人間と付き合っていく中で、学業と共に人間関係について勉強できることも、学び舎という集合場所のメリットだと、私は思っています。
昨今は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、ウェブ講義やタブレット授業なども展開されています。それ以前にも、ネット上で講義や試験を完結し、単位や学位を与える大学も出てきておりました。
人間同士の接触が少なくなるなか、ウェブ講義や遠隔授業で学術的な知識は得られても、人間関係について学ぶ機会は、減っていると思います。
それこそ「ソーシャルなディスタンス」の程良い取り方、あるいは埋め方が学びにくくなっていると思います。
さあ、人間関係の勉強について、いろいろ手段はあると思いますが、こういったマンガで勉強することも、一つだと思います。
マンガ以外にもドラマでも映画でも小説でもいいですが、自分もこうしたいなあ、こうなりたいなあという気持ちが、人間関係を豊かにしてくれます。
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この『キングダム』というマンガは、実は私は読んでいないのですが、この本を読んでからはいつか読みたいと思っています。
すでに膨大なシリーズとなって刊行されていますので、大人買いもいいですが、ちょびちょび入手していくのもいいかもしれません。
『鬼滅の刃』によってマンガにハマった子どもたちにも、いずれ読ませたいと思っています。
そして今回ご紹介する本は、マンガ『キングダム』に描かれた膨大な人間関係のなかから、まさに人間同士のコミュニケーションに関するポイントを抽出した内容です。
「リーダーとは」「コーチングとは」「謙虚さとは」といった、仕事や家庭、といった社会における人間関係に重要な要素。それらをコーチングのスペシャリストである著者が、原作に沿って分かりやすく説いてくれています。
原作マンガを読んだことのある方も、私のようにそうでない方でも十分楽しめて、ためになる本だと思います。
(引用中の太字箇所は原書によっています)
“理想の自分になるために足りないものがある”とはっきり理解し、今すぐ、なんとかしなければならない状態になって初めて人は本当の意味で謙虚になれます。そして自然と努力ができます。
(P27)
謙虚な人は、地上に立っている自分を高い場所から眺めるような「俯瞰の視点」を持っています。逆に言えば、離れた場所から観た自分の存在の小ささを認識するとき、人は謙虚になれるのです。
(P110)
「謙虚さ」を磨くには、まずは自分のことを知る必要があると思います。これには二つの見方があります。
一つは自分が自分自身の成長や人生の中でどういう位置にあるのか。縦軸というか、いわば時間軸での考え方も必要と思います。
理想とする自分像をある程度のビジョンと共に携え、そこに至るためには何が足りないのか、何の勉強が、修業が必要なのか、を考えるのです。
もう一つは、自分が職場で、会社で、家庭で、あるいは社会の中でどういう立場にあるのか。横の拡がりというか、いわば空間の感覚でしょうか。
そして、自分を含めた周囲を高いところから俯瞰的にみることによって、自分の存在の小ささを認識するとともに、こんな小さな自分が周囲や社会と関わるにはどうするかを考えます。
ここでは人間関係が重要な要素となります。まずは人間関係の潤滑油である「謙虚さ」を身につけることが必要だと感じるのです。
コーチングにおいては、クライアントが人に話した声を自分で聴き、自ら考え、自己検証していくことをオートクラインと言います。へたなコーチやコーチングのスキルだけ学んだマネジャーは「質問」ばかりしますが、コーチングの基本は、相手に自分の声を聴かせることにあります。
(P83)
「ねェ、騰?」と王騎に問われるたびに、「ハ!」と答える騰ですが、この何気ないやりとりの繰り返しこそが、立派なコーチングになっているのです。これがコーチングにおけるオートクラインに当たるのです。つまり騰は、自分が敬愛するリーダーが自問自答しながら最高の結論に達するのを、「ハ!」で促しているわけです。
(P86)
みなさんの中にも上司の長話に付き合わされて大変な思いをしている方がいらっしゃるかもしれません。
でも、上司の話をハイ、ハイとただ聞いていることが、もしかしたら上司のオートクラインとなり、考えをまとめることに役立っているのかもしれません。
もちろん、話を聞いているだけの部下としては上司のコーチングをしているなどとは、つゆも思わないでしょう。
それでも、なんとなく話を聞く相手をしているだけでも、けっして気の利いた感想や考えをいちいち述べなくてもいいのです。
話をするだけでも、オートクラインの効果が期待できます。もしかしたら上司も、それを狙って我々をつかまえては話しているのかもしれません。
そういう可能性もあるのであれば、我々はむしろ気の利いた発言を返そうなどと無理にがんばる必要もありません。
騰のように「ハ!」でもいいですし、「ハイ」でも、私のように「はぁ」でもいいので(いいのか?)、相槌を打っているだけでもいいのではないでしょうか。
王騎と馬を並べている騰は、王騎と同じ景色を観ています。繰り返しになりますが、コーチングでも、大切なのは二人の立ち位置。向き合うのではなく、同じ方向の未来を観ることで、コミュニケーションが深まるのです。
(P100)
以前は飲み会ではテーブルを囲んで、あるいは向かい合って飲むのがいいのではないかと考えていました。でも最近、カウンターで並んで飲む良さも感じています。
会話や対話において、人と話す際にはできるだけ相手の目をみることが、大切だとも言われます。しかし、これがなかなか難しい。一瞬あわせるくらいならともかく、話している間ずっと見ているのはなかなか大変です。
よく、相手の首のあたりを見るとか、相手の片方の目だけを見るなどと、いろいろな工夫も言われています。それだけ、相手の目を見ながら話すのは難しいのでしょう。
その分、カウンターなどで同じ方向を見ていると、あえて目を合わせる必要はありません。お互い見えるのは料理やカウンターの奥の店員さんや厨房などです。
もちろん、ときには話が盛り上がったり驚いたりして相手の方を見ることはあると思います。
それはそれでいいのであって、この「相手と同じ方向をみて話ができる」ということも、カウンターの良い点の一つだと思います。
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話は変わりますが、夫婦も同じだと思います。プロポーズみたいな感じで、たとえば「いろいろ大変かもしれないけど、ついてきてくれ」と言ったら、「ついていきたくない、並んで歩いていきたい」なんて言われたら最高じゃないですか。
一方が片方に追従する関係は、あまり生産的ではないと思います。また、ずっと見つめ合っていても疲れますし、もしかして飽きてしまうかもしれませんしね。
できるだけ同じ方向、ときには違う方向や反対を見ていたりするのも、異なる二人が一緒に生活していくポイントの一つかと思います。
ともかく、カウンターにしても、夫婦にしても、仕事にしても、料理や光景、目標や理想、ビジョンなどを同じ方向に見ることで、コミュニケーションや人間関係が深まるのでしょう。
人と継続的に良好な関係を築くためには、相手への気遣いが欠かせませんが、その気持ちが最高に高まると、相手だけでなく、相手の大事にしている人やものにも自然と「想い」が及びます。それが「敬意の視点」なのです。「敬意」とは、相手を「尊敬」「感謝」していなくても持てる視点です。
(P127)
職場において、気遣いは大切です。たとえば病棟で同僚や看護師さんに仕事を頼むとき、あるいは他の科の先生に相談するときなど、場合によっては相手がいま忙しくないかなど考える必要があります。
まあ、気にし過ぎも良くないですし、必要性や緊急性によってはそんなことも言っていられない場合もありますが。そういったことを考えていると、相手の事情を考える習慣がつきます。
相手のことを考えると、相手が大事にしていること、たとえば仕事に対する考え方だとか、優先順位だとか、時間配分だとかに気づくこともあります。
できれば、相手の大切にしていることを考えて、人間関係を進めたいわけであり、これが「敬意を払う」ということかと思います。
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上司と部下の関係であれ、家庭での夫婦、あるいは親子の関係であれ、ある程度の敬意をもって相手を見ることは重要です。
他人には自分の知り得ない苦労があります。その一部は自分を支えてくれている仕事のこともあります。
部下が上司に一方的に迷惑かけっぱなしということはありません。上司は部下の指導や教育を通して、自分の成長を得ています。
これは一見、親に対して何もできなそうな子どもだってそうだと思います。ただ元気でいてくれるだけでも、親は助かります。
たとえもし、言動的にはあまり尊敬できない上司でも、この点ではこの上司に敬意を感じる。たとえば、営業の手腕が優れているとか、手術が上手いとか。そういうことはあると思います。
そして、最終的にはその敬意は相手の「考え」に及ぶのが理想的ではないかと思います。
相手の考えを尊重して、付き合っていくことで、理想的な人間関係が成り立つのではないでしょうか。
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『キングダム』自体が、戦乱の歴史におけるリーダーシップや上下関係などを通して、理想の人間関係を伏流に描いた物語だと思います。そして、この本はそのエッセンスを教えてくれます。
VUCAの時代、仕事の問題、家庭の問題、新型コロナウイルス感染症。現代社会のキーワードを拾ってみても、我々が生きている今の時代も、ある意味では乱世と言えるでしょう。
私も、物語に出てくる大将軍のように、強大な能力(と権力?)を身に付けながらも、自分の縦軸と横軸を眺め、謙虚さを身にまとい相手に敬意を払って付き合っていける人物に、なりたいものです。