リーダーの仮面 安藤広大 ダイヤモンド社
一読すると、ちょっと厳しいことが書いてある本だと感じました。
しかし、本当のリーダーや上司の役割を考えると、この本にはその役割を果たすために必要なことが書いてあります。
もちろん、リーダーにとってカリスマ性や人間的魅力もあったほうがいいかと思います。その方が、部下や後輩である我々も気持ちよく仕事ができると思います。
でも、そう思っていると、いずれ自分たちが職場のリーダーや上司になったときにも、部下や後輩に対して人当りよく接することが大切なんだと思いがちです。
さて、リーダーの役割とはなんでしょうか。そして、その役割を果たすためにカリスマ性、人間性は必要でしょうか。
リーダーの役割を果たすために大事なのは何でしょうか。どういうポイントに目をつけて、部下や後輩に接していけばいいのでしょうか。
やさしさ、気さくさ、明るさなどの人間的魅力、あるいは共感力、牽引力もあればいいでしょう。実際にそういったことを書いているリーダー本もたくさんあります。
それもそうですが、本当にリーダーに必要なことは何なのか。この本はそれを教えてくれる本です。
何をするかと同じく、何をしないかも大事です。
リーダーがフォーカスすべきなのは、「5つのポイント」だけです。
それが、「ルール」「位置」「利益」「結果」「成長」です。
これだけに絞ってマネジメントをします。
カリスマ性も、人間的魅力も不要です。
(P17)
カリスマ性もいらない、人間的魅力もいらない、ということです。リーダーにはこういった素質を持った人がふさわしいと考えますが、そうではないということです。
カリスマ性はともかく、人間的魅力はあったほうがいいのかもしれませんが、それはリーダーに必須のものではありません。
そして、カリスマ性を上げよう、魅力を上げようとする努力ではなく。ここで述べられた「5つのポイント」を押さえているかどうかが、リーダーにとって大事なことです。
優しい言葉をかけて、その場だけ「いい人だ」と思ってもらっても、その言葉は頭に残りませんし、後から効いてもきません。
「尊敬されたい」
「『すごい』と思われたい」
そんな「素顔」を見せないのが「仮面」の力です。
そして、仮面さえあれば、リーダータイプの性格でなくても、マネジメントはできます。
内向的でもいい、声が大きくなくてもいい。
ちゃんとポイントを押さえれば、部下を成長させ、結果を出すリーダーになることができます。
(P19)
人間的魅力にあふれ、人当たりがよく、よく相談にのってくれる。そんな人物が職場のリーダーや上司だったらいいなあと思います。でもそれだけではダメなのです。
リーダーや上司も、「後輩に好かれたい、尊敬されたい、『すごい』と思われたい」などと考え、やさしいところ、格好いいところを見せようと考えてしまいがちです。
そうやってソフトに後輩に接していれば、後輩にとっては「いいリーダー・上司」と感じられるかもしれません。
しかし、リーダー・上司に必要なのは「尊敬される」ことではなく、「後輩を成長させる」ことです。
後輩の頭にしっかり残るように言葉を発するのが大切です。もしかして、言われた時点では後輩にはあまりしっくりこないかもしれません。「なんでそんなことが大事なんだろう」と。
でも、いずれ後から「あのとき上司に言われたのはこういうことだったのか」と効いてくるように、後輩の頭に言葉を残すことが大切です。
後から、以前上司に言われたことが分かることにより、後輩も自分の成長を自覚できますし、実際に成長しているのだと思います。
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さて、本書のタイトルにもある「仮面」です。仮面は完全にではありませんが、顔を隠してくれます。隠すことによって少し“遠慮”や“ためらい”などが減り、大胆に行動できるのかもしれません。
仮面舞踏会なんていうのはそういった要素もあるのではないでしょうか。手術室で帽子にマスクをつけると、人が変わるなんていう外科医もいるかもしれません。
そういった意味での仮面もありますが、この本でいう仮面は、いわゆるペルソナに近い意味かと思います。
我々は職場や家庭、公共の場など場面によって、あるいは接する個人によっても振る舞いが変わります。
ペルソナを入れ替えているとも言えますし、平野啓一郎氏のいう「分人」の思想ともつながります。
「いい人」に「仮面」をかぶせ、少しキツイように見えても、部下の成長を第一に考えることが大切なのです。
ルール
・行動のルール
目標
守れる場合と守れない場合があり、それによって部下は評価される
・姿勢のルール
やろうと思えば、誰でも守ることができるもの
姿勢のルールを徹底して守らせることが、リーダーとしても一丁目一番地
・・・そのルールを「言語化」してシェアすることが必要です。
(P74)
感情で動いている組織では、リーダーが部下に好かれようとします。逆に部下もリーダーに好かれようとします。すると、「人間関係」の問題が出てくるので、疲れてしまうのです。(P78)
以下、「5つのポイント」について、引用も交えながら見ていきたいと思います。
一つめのポイント、ルールについてです。業務目標や治療成績など、行動のルールについては、時と場合により成績は動きます。必ずしも達成できないこともあります。
上司としては、達成できればねぎらい、できなければどうすれば達成できるかを考えてもらうことが大切です。
ときには部下と話し合い、「言語化」してシェアすることが大切です。言葉は脳のアクセスキーです。暗黙の了解、暗黙知も極限的には存在しますが、言葉で伝えられることは伝えましょう。
そのときに大事なのは、「感情」をむやみに挟まないことです。好き嫌いであるとか、怒りを容易に附随させるとか。お互いに疲れてしまいます。
位置
責任者としてのリーダー
部下に任せること、決定権を考える
リーダーの視点は「未来」に
なんでも部下にやらせてみて、責任は自分が持つ、というのが、いいのではないかと思っています。
先輩・上司としても自分もこれまでは部下のような仕事をしてきたので、部下と同様かそれ以上にできたとしても、そこはがまんして。
ある程度決定権を与えるほうが、部下としても自己肯定感というか、「自分ごと」として捉えることができ、自然に反省の習慣もついて成長につながるのではないかと思います。
そして、リーダーは「未来」を見据えて、その未来に向かうためのアドバイスを部下に与えることができれば最高ですね。
利益
個人が追求することで会社が利益をえるもの。それは「成長」しかありません。
個人が成長という「利益」を得ることができるのは、会社の成長に貢献できているからです。「成長」という利益を追い求める限り、会社と利益相反を起こさず、永遠に利益を得続けることが可能です。
(P163)
仕事の報酬は「お金」だけではありません。同僚や顧客などの人間関係もそうですし、自分の成長もそうですし、新たな仕事もそうでしょう。
そして、「成長」は部下にとっても会社や組織にとってもメリットにしかならないものです。会社や組織と「利益相反」を起こさず、得られるものです。
結果
「仕事ができる人」というのは「評価者が求める成果を出せる人」です。
(P197)
でも、その「成長」も、自己目標の達成といったことで実感しているだけではいけません。営業利益であるとか、治療成績であるとか、客観的なもの、評価者が求める成果が得られることが必要です。
もちろん、自分で目標を決めて、それに向かって知識や技術の修得を続け、成長を得ることは大切です。
でも、社会は「結果」を要求しています。自分の成長とともに、職場や組織に還元できる成果をあげる。
そのためにリーダー・上司は何を後輩にしてあげられるか。それを考えましょう。
成長
それが、「人は経験とともにしか変わらない」ということです。
多くの人は、こんな勘違いをしています。
「たくさんの知識を得れば変われる」
「勉強すれば変われる」
「偉い人から話を聞けば変われる」
(P252)
前述した利益の一つである「成長」ですが、たんに知識や技術の修得だけではありません。
「経験」が必要です。
机上の勉強やWeb講義もよいですが、営業体験や実習、あるいは会社や大学、学校にじかに通って経験する「人間関係の機微」も「成長」には必要かと思います。
それは「知識や技術」を「知恵やアート」に昇華する大切な要素として、これまでも多くの人が言っていますし、私もこのブログで何度も書いているかもしれません。
森信三先生のおっしゃる、「人間心理の洞察」といったところではないでしょうか。
人はさまざまな集団に属しています。
会社、家族、友達、趣味の集まり、SNSでのつながりなど。生きているとあらゆるコミュニティに属することになります。
ただ、その中で唯一「会社」だけが「糧を得るための」コミュニティです。
家族や友達、その他多くのコミュニティは「糧を得るコミュニティ」があってこそ成り立ちます。
つまり、会社がすべての土台になるのです。
(P275)
アドラーのいう人生の3つのタスクは仕事、交友、愛です。そう考えても、やはり仕事が収入を得るための唯一のタスクでしょう。
我々は仕事を通して「お金」という利益を得るのみならず、人間関係や成長といった利益も享受し、交友(友達、趣味)や愛(恋愛、家族)といった他のタスクも進めていくわけです。
人生の土台となる仕事、会社です。新入社員は部下となり、上司となり、そして退職していきます。
その流れの中で、リーダーの立場に位置したならば、後輩に「成長」を与え、職場や会社、そして大きくは社会に利益を与えられるように考えることが必要です。
そのためには、この本に書いてることが、役立つでしょう。
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一読すると、なんだか人間味のない機械的な上司になってしまうのではないかと心配にもなります。
でも、とかく人に好かれようとしがちなリーダー、上司にとっては、苦くとも良薬になるのではないでしょうか。
たいてい、読んでみて違和感がある本の方が、自分を成長させてくれると思います。読んでいて「ふんふん、そうそう、そうだね」とすいすい読める本は、あまり自分の足しにはならないでしょう。
私も事なかれ主義というか、穏便にすまそうとする方ですので、ちょっとこの本を熟読して、行動に移してみようかと思いました。