どんな人も、一歩進んだ部下になるために

参謀の思考法 荒川詔四 ダイヤモンド社

「リーダー」の行動、考え方に関する本は、数多く出版されています。このブログでもいくつか紹介していますが、『貞観政要』などもそうでしょう。(参照:『貞観政要に学ぶリーダー論』

有名や経営者の書いた本、リーダーシップや部下との接しかた、教育・指導のしかたに関する本は、一つのコーナーを作って書店に並べられています。

その一方、「部下」についての本は、少ないのではないでしょうか。

もちろん、「報告、連絡、相談」や「礼儀」など、部下として上司とどう接していくか、仕事を進めていくかを述べた本はあります。新入社員の心得的な本もあります。

しかし、「部下」としての行動、考え方についての本は、それほど多くはないのではないかと思います。

この本は、「参謀」という、まあ新入社員やわりと下の者には難しい立場かもしれませんが、上司にとってのそういった役割をどう果たすかということを書いています。

そうはいっても、この「参謀」と言う考え方のポイントは、本文にも書いていますが、いかに上司を「機関」としてうまく稼働させるか、ということです。

この考え方は、なにも本当に「参謀」のような立場であろうナンバーツーやトップ直属の部下のみならず、上司を持つどんな部下にも適用できると思います。

上司の相手は、なかなか難しいこともあります。“面倒くさい”、“なにかと怒られてイヤだ”などと感じることも多いかもしれません。

しかし、そういった個人的な感情はとりあえず置いておき、上司を「機関」として動かして、仕事を進め、仕事の目的を果たしていくことが、大事です。

・・・ビジネスの“どうしようもない現実”のなかで揉みに揉まれて、泥まみれになることによってしか身につけることができない、「見識」のようなものに迫れればと考えています。

(P16)

著者は大企業「ブリヂストン」の元CEOであり、40代で社長の「参謀」を務めています。上に引用したように、その時の経験や、その後トップとなってからの経験を組み入れた本であり、そこから身に付けた「見識」をなんとか書き記そうという本です。

どんなに本を読んでも、やはり「現実」から経験し、学び取るものが、真理であり、役に立つものです。

森信三先生も「真理は現実のただ中にあり」とおっしゃっています。

そういった、いわば「見識」について、もちろん文章化して本として伝えるのは難しいし、そうするものでもないかもしれませんが、伝えてくださっている一冊です。

組織をうまく動かすためには、トップだけがんばっていてもうまくいきません。

どんな部下も「参謀」としての考え方を身に付け、上司をうまく動かしましょう。

だから、1日の仕事のスタートに挨拶に伺うときに、社長に確認・質問すべきことを用意しておく。何もなければ、その日の重要案件を確認する。そのようなコミュニケーションを取っておけば、社長から、その場で重要な指示をされるようになります。それだけでも、「先回り」することになるわけです。

(P47)

上司と会って、「何か報告すること、確認・質問することはなかったかなー」とそこで考えるようではだめで、用意しておくわけです。

報告確認事項を用意しようとすることにより、日々の仕事の進捗具合や問題点などを見る目も、より深くなってくると思います。

報告確認事項を用意しようとする気持ちが、日々の仕事の向上にもつながるのです。

「余計なことを突っ込まれそう」とか、「まだ情報がそろっていないから」などと考えて躊躇することなく、まずは1日に一度は確認・質問するような時間を作ることが大切です。

何もなければ「何もありません」でいいのです。上司も報告してくれたことをきっかけに、こちらに伝えたいことがあるかもしれません。

人々が大切にしている「信仰心」に敬意を示すことには、絶大なパワーがあったのです。経営書を読んでも、こんなことはなかなか書いてありませんが、現場の声に真摯に耳を傾ければ、この「真理」に出会うことができるのです。

(P136)

人間はすべて合理的なことだけで生きているわけではありません。「理論はそうだけど、自分はこう思う」という気持ちや、「信条」や「信仰心」のようなものあります。

規則だから、職場の方針だからと、そういった社員、部下、同僚の「気持ち」や、あるいはここで述べられているような「信仰心」を無視していると、表向きは仕事をこなしているように見えても、次第に不満も溜まってきます。

「信仰心」や「気持ち」といった、定量化できず、決して理論的ではないものですが、これらを大事することが、深部での人と人のつながりを保つのだと思います。

それが、部下に対する姿勢としても絶大なパワーを持ちますし、上司に対しても、たとえば上司の「理想」だとか、「大切にしている思想」などを把握しておくことが、良い部下であることの助けとなると思います。

個人的な考え方や、宗教上の「信仰心」のみならず、大事にしている「風習」や「家族」、「考え方」など同じでしょう。

敷衍して言えば、職場によってことなるローカルルールや雰囲気なども、無理に変えようとせずに、よく理解することが大切です。

逆に、「人間関係は悪いのが普通」と達観すれば、職場の人間関係でクヨクヨ悩むのがバカらしくなってきます。それよりも、多少の軋轢に巻き込まれるのは当然のことと考えて、会社を正常に機能させるために「合目的的」に仕事をすることに徹すればいいと腹がすわってくるのです。

(P250)

まず、一カ所、一時は自分が“ほっとできる”、“おちつく”場所や時間を確保します。

自宅でもいいですし、職場の自分のデスクでもいいですし、昼休みや、ちょっと早めに出勤して確保する朝の時間でもいいでしょう。

そういった場所、時間は大切にするとして、それ以外の仕事の時間、あるいは自宅で子どもや配偶者を相手にする時間は、決していつも良い人間関係でいられるとは限らないことを、知っておくべきです。

子どもがやかましい、配偶者とケンカする、上司に怒られる、部下がいうことをきかない。いろいろ人間関係でイヤなことは起こります。

しかし、ここで述べられているように、「人間関係は悪いのが普通」ととらえてしまえば、そういったことでクヨクヨせずに、「しかし仕事は進めよう」「それでも家族の時間は進み、子どもは成長していく」などと考えることができると思います。

対人関係は異なる人と人の関係ですから、まったく考えや意見が一致することはありません。

そこを、「人を思う心」「人間心理の洞察」など人が「人間」として生きていくための知恵を用いて、うまくやっていくわけです。

人間関係が悪いときこそ、こういった知恵を思い出して、直接的な葛藤や鬱屈は一瞬感じても、すぐに捨て去って、職場の機能を正常に進めるという目的を果たしていければと思います。

そして、ときには自分が“ほっとできる”、“おちつく”場所や時間において、ドローンのようにちょっと高い位置から、今の自分と周囲の状態をみて見るのもいいかと思います。

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強大な権力や能力を持つ経営トップなどが、うまく会社を動かしていくという時代は過ぎ去ったのかもしれません。

これからは、上役といえども職場という機関のいち歯車であり、部下たちとうまく噛み合いながら仕事を進める時代でしょう。

そこで上司に必要なのは、リーダーシップや能力もそうですが、自分自身の信念、考え方を堅持するとともに、部下に対する共感や思いやり、あるいは部下の「気持ち」「考え方」に配慮する姿勢ではないかと思います。

最近は「部下力」などという言葉も出てきており、部下としても上司とどう噛みあっていくか、が強調されています。

部下も、上司が機関としてうまく稼働するよう、考えなければならないのです。

上司は部下に対して、そして部下も上司に対して常に考えなければいけないのは、自分も相手も最大の能力を発揮できるようにすることです。

もしかしてこういったことも、西田幾多郎のいう「善」つまりself-realizationの一つのかたちなのかもしれません。

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