敵を知り己を知り道具を知れば百戦殆うからず

きみのお金は誰のため 田内学 東洋経済新報社

老後2000万円問題、新NISA、物価値上がりなどの話題。身近では異動して変わった給料。子供の進学と今後。そういったお金に関わることも気になっていたこの頃でした。

普段なにげなく使っているお金ですが、果たして“なにげなく”使っていていいのか。お金についてもっと考えたり勉強したりしたほうがいいのではないか、と思っていました。

「経済」は「経世済民」として、人間の生き方や社会を良くするための一手段です。しかし、どうしてもお金にはネガティブなイメージを持ちやすいのではないでしょうか。

子供のころから「あまりお金の話はするものじゃない」とか言われましたし、「成金」「守銭奴」「宵越しの金は持たない」など、あまりオカネオカネしないほうが良い印象です。

それでも大きなお金の流れを知ることは、それで成り立っている社会で生きていくために大切だと思います。

これまで私は、浜矩子さんの『「通貨」を知れば世界が読める』や、厚切りジェイソンさんの『ジェイソン流お金の増やし方』、白井聡さんの『武器としての資本論』、斎藤幸平さんの『人新世の資本論』など、お金に関わる本も少しは読んできました。

そういった中でも今回ご紹介するこの本を読むことにより、身近な「お金」の意味や役割、お金によって回っている社会のしくみについて、改めて勉強することができました。

—お金自体には価値がない。

—お金で解決できる問題はない。

—みんなでお金を貯めても意味がない。

これらの謎を解き明かすと、お金という鎖から解放され、お金を自分の意志に従って使えるようになります。それは、新たな視点の発見でもあります。(P23)

冒頭の「本書のコンセプト」で述べられているこの三つの「お金の謎」が、本書を読むうちにしみじみと分かってきます。いっけん「え?」と思う言葉ですけどね。

さて、孫子の“敵を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず”という言葉は有名です。敵の規模や力量、戦法などをより詳しく知ることにより、それに対応した策を練ることができます。

そんなことは当たり前であり、この言葉でより重要なのは“己を知ること”である、ということでしょう。意外な盲点になる自分自身を知るように、と。

戦いにおいても、あるいは何かの試合においても自軍の戦力、性格や士気、弱点など、ネガティブなことも排除せずに考えることが大切です。

はたまた指揮している自分自身はどうか、どういった局面に弱いのか、なにが得意なのか。“己を知る”ことが最も難しいのかもしれません。

しかし私はここに、もう一つ言葉を入れたいと思います。“道具を知る”ことです。“敵を知り己を知り道具を知れば百戦殆うからず”といったところでしょうか。

戦いでは武器が、あるいは通信手段などが道具として重要な役割を果たすでしょうが、その性質や使用法をよく知ることが大切です。スポーツの試合などでもボールや設備などの要素が大切です。

たとえば手術においても道具を知ることは重要です。いかに道具を自分の身体の一部、手や指の延長として扱い感じることができるかが、手術の腕に関わってきます。

「道具」の記事もご参照ください)

そして、“お金”もまた道具の一つと考えられます。

人間の社会で生きていくためには自分を知ること、他者を知ることが大切です。さらに、自分と相手の間でやり取りされる道具としての言葉や心を学ぶことが大切です。

これらは実践の人付き合いはもちろん、読書などによって「人の心を思う」という能力を身に付けることができます。

そして自分と他者、社会を行き来するお金。これもまた、物質的な面で人間の関係を成り立たせている道具と言えるでしょう。

道具としてのお金の価値を知り、その性質をよく知っておくことは、社会で生きていくために必要です。

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お金は人と人とをつないでいます。また、お金は人と自然とをつないでいます。自然を上手く人間の社会に導入しようというところで、お金が役に立っている気がします。

現在、農業や漁業などで自然から得られた野菜や果物、魚介類などを、人間社会に組み込む時点でお金と交換されます。

大昔は、人と自然はすぐ近くにありました。その日の食料は近くの森や川、あるいは海で採取して得ることができました。人は自然から食物を得て、自然の中で暮らしていました。しかし、今は人と自然の間には距離があります。すべての人が直に自然を利用できるわけではありません。

だから、自然から作物や採取する人、その人から作物をもらい材料を作る人、その人から材料をもらい食べ物を作る人、その人から食べ物をもらい料理を作る人、その人から料理をもらい、料理を欲する人に渡す人。多くの段階が生まれました。

その一つ一つの段階は物々交換でも可能かもしれません。しかし、自然の特徴である“生(なま)”の要素があるため、旬や鮮度、劣化や腐敗、賞味期限があります。つまり、時間も関わってきます。また、自然と人、人と人の間に空間的な距離もあります。

その時間や距離の問題を解決したことが、お金の一つの活躍でしょう。お金にしておけば腐ることも劣化することもありません。

また、お金をいくら貯めても、それと交換することによって手に入れたいと思うものがなければ意味がありません。

お金は道具であり、また手段でもあります。相手と物質的にお互いにwin-winの関係を保つための手段の一つに過ぎません。

手段の目的を忘れ、手段を蓄える、つまりお金を貯めるだけが目的になっては、お金は役に立たず、真価を発揮しているとは言えません。

お金は使用することで血液のように社会を巡り循環します。血液が細胞に栄養を与え、細胞が構成する組織、器官、器官系を働かせるように人間に栄養を与え社会を動かします。

この本はお金についての意識をガラッと変えてくれたことはもちろん、小説の物語としても面白く、感動させてくれました。

冒頭で述べたような様々なお金の問題があり、お金の勉強をしなくてはと思います。そして教科書的な実用書に頼ることが多いお金の勉強です。

どうしても、いかにして損を避けて儲けるか、いかにして楽に暮らすか、という人間的にヒンヤリした方向に向きがちになってしまいます。

でも、こういった温かい物語を通してお金の勉強をすることで、読者にまた違ったお金の印象を与えてくれると感じられた一冊でした。

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