こうする家康

2023年11月11日

家康の本棚 大中尚一(著) 小和田泰経(監修) いずみ朔庵(イラスト) 日本能率協会マネジメントセンター

NHK大河ドラマ『どうする家康』も、佳境に入ってまいりました。「関ヶ原の戦い」はこのドラマの一つの山場であり、また歴史上の大事件でもあります。

私のような歴史に疎い者からすると、いわゆる戦国時代というものは織田信長→豊臣秀吉、そして関ヶ原の戦いで徳川家康が勝利して江戸時代に移った、などという線のようなものでした。

なんとなく、織田信長の次に豊臣秀吉が出現して、その後に徳川家康が出現した。その後は江戸時代になって代々将軍が出現していった。そんな感覚でした。

しかし、歴史好きの次男の熱中ぶりにつられて今回の大河ドラマをよく見ておりますと、その直線の周りには多くの人が関わり、太くなったり細くなったり、ときには折れそうになり、ときには輝き、という物語が感じられます。

ドラマというものはドラマとして作成されておりますから、ある程度脚色はあるとしても、実際には多くの歴史上の人物がズレはあっても同じ時間をワイワイと過ごしていたのです。

そして、人々が協働したり敵対したりして人間関係を続けているところに、そういった人間味をかなり省いてしまったものが、“教科書的な歴史”や年表という捉え方なのだなあ、と感じました。

今回ご紹介する本は、稀代の読書家であった徳川家康がどのような本を読んでいたか、そして読書をどう活かしていたかを教えてくれます。

さらにマンガやイラストを交えた文章により、家康を中心としたまさに今の大河ドラマで繰り広げられている時代の歴史がよく理解できます。

歴史上の偉大な人物には、読書家が多いのではないかと思います。また、本や言葉といった情報を大切にした人物が、歴史に名を残していることも多いのではないでしょうか。

以前ご紹介した上杉鷹山も、その政治手腕もさることながら、自身も幼少時から読書に親しみ勉強していました。

また、鷹山の部下にも読書家があり、また記録を残す著述家があったおかげで、現代にまで多くの人に尊敬されてきたところがあるでしょう。

『上杉鷹山』の紹介記事もご参照ください)

家康も、いわゆる四書五経から『史記』『孫子』『源平盛衰記』『吾妻鏡』など幅広く読書を続け、彼の人生の様々な局面に活かされていることが分かります。

大河ドラマでも家康の人間関係、考え方生き方を深く感じることができました。さらにこの本を読むことで、その考え方生き方の元となった本のことや、読書の活かし方を知ることができます。

歴史や物語の本としても面白いですし、ビジネス書としても日常の生活や仕事に活かすことができる一冊です。

(太字は本文によります)

もし、今のあなたに大きな夢や目標がなくても、それについて何も心配する必要はありません。今はただ目の前にあることをひたすら一生懸命やる。そうして一生懸命やっているうちに、急に目の前がひらける瞬間があります。大切なのはそのときに臆せず飛び込めるように準備しておくこと。「運がよかった」では済ませずに、「運のよさ」を自覚して挑む覚悟をもつことが重要です。(P106)

幸運とは、チャンス(機会)に対して準備ができていることと聞きます。どんな人にも機会は訪れますが、それをつかんで活かすことができるかどうかはその人の準備次第というところですね。

あるいは、機会が訪れていることすらも、準備ができていない、受け取るアンテナがないために気付かないで過ごしてしまうこともあるでしょう。

読書はその“準備”や“アンテナ”を用意できる手段の一つです。読書により多くの知識を得て、あるいは小説などから多くの経験を知ることで、機会に気付きやすく捉えやすくなります。

また、読書は心の栄養として働き、頭を耕し豊かな土壌をつくることで知識や経験、考え方が成長するのを助けてくれます。

家康は幼少時から読書をしていたことにより、頭の中にはたくさんのアンテナが備わっていたのでしょう。また、外界からの様々な情報や機会をどのように捌くかを考え、育てるための豊かな土壌もできていたのだと思います。

だからこそ、戦乱の中でも生き延びることができ、天下人となった後も世界史上も稀にみる長期安定の世をつくり上げることができたのではないでしょうか。

長く活躍されていたり、一過性の成功ではなく永続的な成功をされていたりする方は、無駄なことにお金を使いません。お金の使い方にシビアです。しかし、自分が必要だと思ったり、自分を豊かにしてくれると思ったりしたものには惜しげもなく投資しています。そしてその投資がより豊かさを生む。こういう循環を作っているようです。(P168)

悪循環は放っておいても悪い方向に進んでいくものだと思います。これに対して“好循環”という言葉はあまり使いませんが、良い方向に進んでいくことです。

エントロピー増大の法則よろしく、ものごとは放っておくと無秩序、乱雑な方向に向かって変化していくようです。

それもあってか、悪循環は放っておいても続くことが多いのに対して、好循環はそれほど長く続くものではないような気がします。

好循環を維持するには、いささか継続的努力を要します。理想的な心身の状態を維持するには、食事や運動などに対する継続的な気遣いが必要です。

それに対して食べ過ぎ飲み過ぎや運動不足など悪い習慣とその悪循環は、いっけん安楽なものですから、気を付けないと自然にはまり込んで続いてしまいます。

良い習慣を続けることは“自分への投資”であり、食事や運動の習慣とともに瞑想、読書なども心を良い状態に維持するための投資となるでしょう。

瞑想やマインドフルネスはある程度の環境があればいつでもどこでもできますが、読書には本が必要です。

しかし、本代をケチッてはいけません。1000円の本を100冊買っても10万円です。100冊分の知識や経験、あるいは“読書という経験”が10万円で身に着くと考えたら、ヘタな講習会よりずっと安いでしょう。

また読書にはどうしても時間が必要ですが、その時間なんてテレビを削ったり少し早起きしたりすればいくらでも捻出できます。

読書はまさに自分への投資であり、損することのない、メリットしかない行動です。

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私たちは様々な出来事に対してどうしようかと考えながら生きています。家康も“どうする家康”と様々な機会において常に考えながら、戦乱の世を生きていたのでしょう。

“考える”とは、自分の頭に聞いてみることだと思います。だからこそ家康も、“どうする家康”と自分に対して問うているのです。

そんなとき、次々に入ってくる情報を処理し豊かな知恵を育んだのが、読書によって準備され耕された彼の頭でした。

戦乱の世とまでは言わずとも、世界的には戦乱があり様々な問題も起こっている今の世です。どうか多くの人間が読書をして、自分の頭という相談相手を鍛え、仲良くできればと思います。

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