ハートドリブン 塩田元規 幻冬舎 NEWS PICKS
これからの時代、大成功している会社というのは、単に収益が良いというだけではだめだ。
仕事は人生を彩る手段の一つでなければならない。仕事は人生における重要なタスクの一つであり、単に生活のためのお金を稼ぐ手段である時代は終わった。
つまり、仕事で収入を得るだけではなく、仕事を通して自己の成長、能力開発、自己実現を目指すのだ。
これまでは、会社の方針で、会社の指示する仕事をこなすことが多かった。確かに、会社の維持、業務の維持のためのルーチン業務や雑務は必要である。
しかし、そういった仕事内容は、進化しつづけるAIにとって代わられる。というよりも、AIに任せておいて良いものが多い。
これからは、自分の「やりたいこと」を少しでもできるように、あるいは「やりたいこと」と絡めて自分の仕事や職場環境を考えられるようにするのだ。
さらに、人間にしかできない「アイディアやイノベーションを創出すること」が、残された人間の役割である。
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著者は、表紙帯にも“大成功”企業と書いてある企業の創業者である。同じ帯には売上高何億円・利益何億円とも書いてある。
しかし、最初に言ったように売り上げや利益の数字で“大成功”と言っていてもつまらない世の中である。せいぜい、「社員の給料もいいんでしょうね」くらいしか思わない。
そうではなく、著者の創業した会社は、「ハート(感情)」といった数字では見えないものを大切に扱うことで、メンバー(社員をそう呼んでいる)の内面からの充実をもたらし、“魂”の進化をもたらしている。
その結果、仕事を通して働く人も成長し自己実現を果たし、追随するように業績も上がって、まさに“大成功”となっているのだ。
これからの仕事、企業、職場、そして働き方を考えるうえで、とても参考になる一冊である。
リーダーはもちろん、のちにリーダーになる人も、そうではないだろうと思っている人も、ぜひ読んでいただきたい。
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世界に起こっている三つの変化
1.便利さ(機能的価値)の時代から、心(感情価値)の時代へ
2.画一的な価値観から、多様な価値観を認め合う時代へ
3.透明性の加速。DoingからBeingの時代へ(P39)
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いわゆる「VUCAの時代」を別な面から見ると、このようになるだろう。
AIなど技術の進化によって世の中は便利になり、お金を稼いで全自動洗濯機やテレビや冷蔵庫を購入して生活を便利にしようという時代ではなくなった。
家電にしても、機能が揃っていることはもはや当たり前で、「気の利く」家電がはやっている。IoTの導入はその先駆けであろう。
ほとんどの場合、衣食住にはまず困らない。ベーシックインカムの考えも出てきている。これまで人間がやっていた仕事上のルーチン業務、雑務もAIがさかんにやってくれる。
では、人間はなにをするか。・・・何を目的に生きるか。
物質的な欲求が満たされ、マズローの言う人間の欲求段階はさらに上に登る。社会的な欲求、精神的な欲求、そして自己実現の欲求へ向かう。
これまで仕事をする目的となっていた、報酬や地位といった画一的な価値観から、精神的安定、満足、自己実現といった個々人の考え方による多用な価値観へと移り変わっていく。
そういったなかで著者が重要視するのが、「感情報酬」である。いわゆる「やりがい」もこれに当たるかもしれない。
また、インターネットでの情報開示、検索機能が向上し、それぞれの会社、職場、大学、医局が“どういうこと”を行っているかは調べることが可能で、分かりやすくなっている。
そういった中では、“どのような(雰囲気、活気、人々の個性)”会社、職場、大学、医局かが大事になってくる。
たとえば、医学生でも、自分の志望する専門科(内科、外科など)を考えるうえでは、医局や病院の規模や設備、収益もそうかもしれないが、職場としての雰囲気やメンバーの人柄なども、参考にしたいところだろう。
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ゲームの種類に、「RPG(ロールプレイングゲーム)」がある。これは、物語の中で課題が与えられ、努力をして成長し、困難を克服し、目的を達成するゲームだ。ゲームをやらない人の中には、「なぜ、お金と時間を使って、あえて努力や困難を体験しているのか?」と思う人もいるだろう。
・・・僕は、これこそ、感情価値にお金を払っているんだと捉えている。(P41-42)
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ゲームも変わってきている。私も子どものころはゲームをかなりしていて、熱中して怒られるほうであった。
(この後、うっかりゲームについての持論を数十行書いてしまいました。これはまた別の機会に提示させていただきたいと思います。)
最近も子どもたちがゲームをしているのを見ると、面白いんだろうけで、彼らはこの時間を使って何を得ているのだろうか、などと非常におせっかい、かつ、つまらないことを考えてしまう。
しかし、ゲームをする時間があったり、勉強しなさいなどとは、今の子どもにも言いたくないし、子どものころの自分にも言おうとは思わない。
ゲームといえどもあなどるなかれ、壮大な物語、神話、入り込み感は名高い長編小説に匹敵するものである。英語など言葉の勉強にもなる。
それだけではなく、ゲームの中で努力や困難を体験することにより、達成感ややりがいといった感情価値を得ているのだ。
時間をお金や知識の収集に使わないともったいない、という考えではなく、自分の感情を満足させる、自分の感情を実現することにお金や時間を使う、という考えである。
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「ハートドリブン」という言葉は聞きなれないかもしれない。一言でいえば、人々が自分の内側のハートを原動力に活動をしていくことである。
「ドリブン」の対義語は「インセンティブ」だ。「ドリブン」は原動力、「インセンティブ」は誘因。誘因は人を動かすのに使うもの。それはお金や地位だったりする。(P66)
限られたリソースを奪い合う時代は終わりだ。内側の感動や感情には、リソースに制限がない。無限大に生み出せる。(P67)
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人を動かすための動機づけ(何のために動くのか、働くのか)には、外発的動機づけと内発的動機づけがある。
外発的動機づけはコントロール思想であり、いわゆるインセンティブである「飴」と、場合によっては「鞭」によって、人を動かそうとすることである。
著者が提唱するのはインセンティブ(外発的動機)ドリブンではなく、ハート・感情(内発的動機)ドリブンで人を動かす、というより、動いてもらうことである。
外発的動機づけに用いられるインセンティブは、限りのあるリソースである。給与を支払うための予算、昇格のためのポストは限られている。
その反面、ハートは個人の内からいくらでも湧き出てくる。限りあるインセンティブに比べ、個人が各々考えている「やりたいこと」「自己実現」は限りなく内蔵されている。
もしかして脳内麻薬?のようなものの働きも加味されて、お金による収穫以上にハートの実現は、やりがいを感じられるのだろう。
自分の能力開発、潜在能力の開花、とめどない進化、まだ見ない自分の発見がもたらされるのだから。
そして、それらもまた、仕事の報酬なのである。
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観念というモンスター
魂の進化を阻むモンスターは、思考・観念の中にいる。モンスターは、巧妙に姿を隠しているので気づくのが難しい。(P152)
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こういった理想的なハートドリブンの考え方を邪魔するモンスターがいる。
著者も挙げているが、「期待に応えないと愛されない」、「自分はいいからと人や周りを優先する」、「周りに合わせないといけない」、「本音を言うと人を傷つけてしまう」などなど。
この辺りは『マインドセット』の話にも通じると思う。「硬直マインドセット」ではなく、「しなやかマインドセット」を。
出る杭は打たれる風潮も困ったものである。
そういえば、私が偉そうに、後輩などに言っている「謙虚さ」などのいわゆる「徳目」も、「和」を貴しとする日本では重要なことではあるが、あまりに過ぎるとがんじがらめになってしまう気もする。
とくに「謙虚さ」を求めることなんかは、優秀な人の活動性を抑え込むのではないかと心配している。
この辺りは、ニーチェのいう「ルサンチマン」にも通じるところがあるかもしれない。
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感情価値を大切にすることこそ、日本の可能性だ!!
僕は、心の時代に世界がシフトしていくことは、日本にとって大きな可能性だと思う。これからの時代は、文化やアートといったものがより価値を持つ。歴史やストーリーが大切になるし、ハイコンテキスト(抽象的、概念的、非言語)な説明しづらいものへの理解が必要になる。それは日本が得意なことだと僕は思う。(P243)
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私もそう思う。西田幾多郎先生も同じように考え、そして森信三先生もそうおっしゃっている。
西洋の論理的思考、東洋の感情を大事にする思考。両方を併せ持ち発展してきた「和(和えもの)」の国である日本こそ、ハートを大切にする労働形態が得意なのではないか。
日本は歴史が古く、昔から芸術や美術が大切にされ、独自の文化を作ってきた。
日常の所作であるお茶飲みにも、戦闘手段である剣や弓、体術にさえも「禅の思想」をはじめとする「ハート」を取り込んできた。
日本人はもともとハートを大事にする人間なのだ。
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日本は明治以降、西洋流にやってきたら経済至上主義で会社勤めも収入が第一の目的になってしまったが、もう少しハートを大事にして働くことを考えてもいいのではないか。
自己実現の手段としての仕事を考えるのである。
これまでは、仕事→お金→自己実現
つまり、仕事をしてお金(自己実現のための手段)を稼ぎ、欲しい物を買ったり旅行したりして自己実現する。
お金で買えないもの(「愛」「やりがい」など)は問題であった。
これからは、(仕事=自己実現)→お金
つまり、仕事自体が自己実現の手段であり、仕事を通して自己の能力向上、成長が得られる。附随してお金も得られる。
「愛」はともかく、「やりがい」は得られる。
もちろん、ベーシックインカム的な衣食住のための収入は必要であるが、「人生のタスク」としての仕事を、再考してもいいだろう。