手のひらの音符 藤岡陽子 新潮文庫
書店で偶然みつけた本でした。この本と出会って、読んで本当に良かったと思いました。
藤岡陽子さんの作品では以前も『満天のゴール』を紹介させていただきました。『きのうのオレンジ』もとても良い作品でした。
記者として看護師として人間を見つめてきた著者。その著者が描く家族、境遇、病気に彩られ織りなされた登場人物の生き方。
人間の生き方に密接するテーマの物語が、読者の年齢や立場、境遇に応じて身につまされる感情を揺り起こし、読者に生きる力を与えてくれる作品と感じます。
人によって、闘い方はそれぞれ違うんや。だから、自分の闘い方を探して実行したらええねん(P116)
諦めるって気持ちは、周りの人間に伝染するんだ。(P307)
自分一人ががんばっても世の中は変わらないかもしれません。でも、自分については良くなるかもしれません。
みんながそうすれば、みんなが良くなるかもしれません。そして、世の中も良くなるかもしれません。
良い機運はゆっくり広がりますが、悪い機運は急速に伝染します。一人が諦めてしまうと、その人だけに留まらず、周囲の人にもネガティブな気持ちが伝染してしまいます。
それぞれが自分を良くするために、それぞれの闘い方で、人生という勝負を生きていったらいいと思います。
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この本を読んでいて涙が滲み続けるのは、物語の登場人物たちが読んでいる自分にも良い影響を与えてくれているのが意識的にも無意識的にも分かるからでしょう。
手に持つ本の中で繰り広げられる物語から自分に対して、ふつふつと生きる力が注ぎ込まれてくるのが感じられます。
病気のこと、家族のことや仕事のことなど、現実で生きる私たちも様々な不安や悩みを持って生きています。
そういったテーマを扱った物語の中で、登場人物がどのように考え、どのように行動したか。
たとえフィクションであり、たとえ現実にはそうはいかないと思っても、何らかの良い影響を読者に与えてくれてくれることは確かです。
私たち読書人は、そして人間は、食べ物によって身体の成長を得ると同時に教育や読書の言葉によって精神の成長と癒しを得ているのですから。