自分の小さな「箱」から脱出する方法

2022年11月5日

自分の小さな「箱」から脱出する方法 アービンジャー・インスティテュート 金森重樹 監修、冨永星 訳 大和書房

この本を読んだのは、かなり前、10数年以上前になるかもしれません。ただ、読んだときにかなりの感銘を受け、自分の考え方が変わったような気がしたのを覚えています。

もちろん、これまでに自分の考え方を変えてくれた本はたくさんありますが、その中でもこの本は、いつまでもそっと心の片隅に存在を感じる本です。

哲学者はこれを『自己欺瞞』と呼んでいる。

でもザグラムでは、もっとくだけたいい方をしている。『箱の中に入っている』というんだ。

つまり、自分を欺いているときには、わたしたちは『箱の中』にいるというわけだ。(P30)

人は、この本でいう「箱」に入って過ごしています。そのため、周囲に対する見え方、受け取り方に影響を受けています。だから、その「箱」をなんとかしましょうと。

あ、思い出しました。なんとなく、私が医者になってあまりたっていないときで、上級医や同僚との人間関係などに悩んでいた?ときに読んだと思います。

そして、当時読んでみたところ、周囲の人間関係に対する見方、考え方がガラッと変わったような記憶があります。

さて、それからおそらく10年以上たった今。この本を読んで感じたことは今も自分の中に残っているのでしょうか。この本を読んで、「こうしよう」と思ったことを、今もできているのでしょうか。

そう思い、最近読み返してみました。案の定、全くその通りとまではできていないと感じました。

でも、悲嘆することはありません。自分が変わったのかどうかは分からないものです。人生は一通りだけであり、自分の変化についての比較対象はありえませんから。

せいぜい、他人の評価や家族の示唆、恋人の揶揄くらいでしょうが、これらも主観的な要素が多いものです。

この本は比較的古い本ですが、とてもいい本だと思います。書店でも昔から今までずっと並べられています。

昔読んだときは、家庭を持ったり子どもを持ったりして新たに出現する様々な人間関係への考え方を刷新してくれました。

さらに仕事の場では、自分が研修医あるいは研修医あがりたての医者として、周囲のとくに上の者に対する人間関係について考えるとき、この本が役立ったと思います。

さて年月もたった今、そういった状況も過ごしてきて、比較的人生の上級者?になって読み返してみると、それはそれでまた役に立つ内容だと感じました。

我々がこの世で受ける苦しみは、それぞれが脈絡なく発生しているようでいて、実は複雑にからみあった糸のように相互に影響しあっていることが多いのですね。

そして、その根本の原因を創り出している発生源が、ほかならぬ自分自身のものの見方であることが人生においては存外に多いのかもしれません(P Ⅷ)

人はどうしても、自分の「箱」に入って周囲を見てしまいます。周囲からの情報も偏った見方になりがちで、自分本位の考えになりがちです。

しかし見方を変えれば、これまでの人生や勉強でそういった「箱」を作り上げたからこそ、世界を自分なりの見方で見ることができ、自分なりの感受や防御を備えてきたとも言えます。

しかし、その「箱」は、複雑な人間関係のなかで容易にコミュニケーションの支障となり得ます。そんな「箱」の特性を知り、どう付き合っていくか。それをこの本は教えてくれます。

本はいつまでも変わりません。でも、それを読む人間はいつまでも変わり続けます。

変わる人、時代に常に寄り添ってくれる内容の本は、古典として生き続けます。古典はそれこそ昔から、手に取った人間の変化や成長を見てきました。もしかして人類の成長、進化、あるいは退化を見ているのもまた、古典をはじめとする本たちかもしれません。

一つの本の横を、時間軸に沿って変わっていく人間たち。変わる人間のほうとしては、変わらず存在する時間軸そのもののような本を見るたびに、自分の変化に気づきます。

そして、今ここの自分に役立つことを見つけることができます。

この本は、そういった自分の変化を感じさせてくれる、そして自分の変化に応じてタイムリーに教えてくれる「本というものの有難さ」を、再認させてくれました。

人生の折々で読み返したい一冊です。

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