「鋭さ」だけでは生きていけない、「鈍さ」も必要です

2020年12月5日

鈍感力 渡辺淳一 集英社文庫

自分の結婚式で、勤務していた病院の看護師長さんからスピーチをいただいたことがありました。

「先生は忙しい仕事のなかを、“鈍感力”で乗り切っておられると思う」と。

思い当たってみると、そうかもしれません。たとえばかなり怒られても、それなりに落ち込みますが、真面目に打ちのめされたり自暴自棄な方向にいったりせずに、ある意味右から左に流すような感じで、過ごしているかもしれません。(もちろん、メッセージはしっかり受け取っております)

また、たとえば妻の機嫌が悪くて、いろいろ言われていても、イラッとすることもありますが、その気持ちとはちょっと離れたところに立って、妻の言葉が右から左にベルトコンベアーで運ばれているのを眺める、といった感じもします。(もちろん、メッセージはしっかり受け取っております。おそらく)

「鈍感力」という言葉は、2007年の新語・流行語大賞ベストテンに入っていたようです。それよりもしばらく後になるかと思いますが、スピーチで言われて買ってみたのがこの本でした。

この本を読んでみると、なるほど自分に当てはまることもあるかもしれません。そして考えてみると、鈍感力とはなかなか良い能力ではないかと思います。

まあ、自分では「鈍感力を使おう」などと考えているわけでもなく、性格的に周囲の空気も読まずに鈍感でいることも、いいのかもしれませんが。

もちろん、キビキビすることが必要な場合はそうしますし、単なる鈍感で周囲もあきれるようでは困ります(なかなか本人には分からないところもありますが)。

新型コロナウイルス感染症で、世の中もギスギスしています。

もちろん、感染状況を把握や、個人的な感染防止対策などしっかりすることは必要です。

しかし、その一方で、世情に左右されず、いい意味での「鈍感力」を身に付けて世の中を生きていくのも、必要かと思います。

それぞれの世界で、それなりに成功をおさめた人々は、才能はもちろん、その底に、必ずいい意味での鈍感力を秘めているものです。。

鈍感、それはまさしく才能であり、それを大きくしていく力でもあるのです。

(P25)

押して駄目なら引いてみろということもあります。なにかを成し遂げようとしたときに、直接的にその目標に有効なことだけを考えても、うまくいかないものです。

その一方で、間接的に、あるいはそんなことを期待していないようなことが、まわりまわって目標への道筋を明らかにしてくれることもあります。

また、著者も自分の文壇での経験を書いていますが、目標を目指しても必ずしもうまくいくことばかりではありません。いやむしろ、うまくいかないことのほうが多いでしょう。

うまくいかないこと、失敗や余計な仕事も、全てがそうはならなくても、目標への肥やしになれば、と考えるのがいいのではないでしょうか。

そのためには、直接的な効果のみを期待して積み重ねていくだけではなく、したたかに、「鈍感力」を駆使して、いろいろなことを何かしらプラスになる、と考えて過ごしていくのもいいのではないかと思います。

男ならみな、このS先生のように鈍く、打たれ強くなって欲しいものです。とくに男の子の場合は、このような逞しさが必要です。

(P34)

”男なら”、”男の子の場合”は、というのは、今やそぐわないと思います。最近では誰でも「レジリエンス」など打たれ強さが望まれています。

「VUCAの時代」などと呼ばれ、先行きの不透明な現代の時代背景によることもあるでしょう。あまり先行きが”透明な”時代もないかとは思いますが。

さて、S先生というのは著者の先輩の医師だそうで、たとえば手術中に教授や上の医師に叱られると、いつも「はいはい」と答えながら、手術の助手などをしていたそうです。

他には叱られると落ち込んだり、頭を抱え込んで暗くなったりする同僚や先輩はいたようですが。

それでもこのS先生は、手術も上達し、のちには大きな病院の院長や理事長を務めるまでになったようです。

私もこの「はいはい」と答える、というか“受け流す”姿勢は大事だと思います。言っている方からみると、多少手応えのない奴と感じられるかもしれません。

しかし、一つ一つのお小言をまじめに受け取っては、どうしてもストレスになりますし、落ち込んでしまいます。

伝えようとされている「メッセージ」はしっかと受け取り、叱り怒りにつきものの「感情」は流す。そんな感じがいいのではないかと思います。

いずれにせよ、結婚は裏を返せば、長い長い忍耐の道のりでもあるのです。

よく、結婚の幸せを口にしたり、老後しみじみ「あなたと一緒でよかった」などといいますが、それは長い長い忍耐を経てきた結果のつぶやきなのです。

そしてその忍耐の裏には、素敵な鈍感力が二人を支え、守ってきたことを、忘れるべきではありません。

(P133)

「結婚」も、人生の一大イベントであり、その後の人生の流れをガラッと変えるものであります。

しかしこれも、人間というまったく違った、しかも相互作用、反作用を起こし得る二人が、一緒に過ごそうというのですから、うまくいくことのほうが不思議なくらいでしょう。

そこには、ギスギスした歯車のうまくかみ合わない感じがしたり、いまいち相手のことを理解できない感じがしたりします。でもそれは当たり前です。

それでも、二人でいることによる「幸せ」を、ときには感じることができるのも、結婚というものの良いところかと思います。

歯車をうまく回すための潤滑油としては、コミュニケーションだとか思いやりだとか共感だとか、いろいろあるかもしれません。

これはなにも結婚のみならず、会社やサークルなどどこでも当てはまるでしょう。

そして、鈍感力も、たとえば時々歯車がハズレていても、かまわずお互い回り続ける様な感覚で、二人の人生を進めて行く、素晴らしい能力なのではないのかと思います。

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何ごとも鋭く反応し、鋭く解決できれば素晴らしいことです。しかし一方で、答えの無い問題、完治のない病気など、必ずしも鋭くは解決できない問題もたくさんあります。

そういった「得体の知れない相手」に対峙するうえでも、この「鈍感力」は一つの有用な能力なのかもしれません。

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