「助手の心得」から考える「技術」の学び方

手術では、「術者」と「助手」が存在する。

実際に執刀する術者は、切ったり剥がしたり分けたり取ったり繋いだりして手術を能動的に進行させてゆく。

では、助手は何をするか。手術の種類によっては、術者だけでも手術を進行できることもあり、助手としても何をしたらいいか分からない場合もある。各人の性格にもよるが、ボーッとしていても済んでしまうこともある。

(なお、このようなボーッとした助手のことを聞くと、医療に対して心配になられる方もおられるかもしれないが、そういった場合は術者がきびしく指導するし、しっかり気にかけているのでご心配なく)

そこで、助手はどんな心得をもって手術に臨むのが良いか、少し考えてみた。

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まず、術者が執刀するのを補佐するのが助手の役目である。

つまり、術者の視界をよくするため術野(手術している範囲)をきれいに保ち、ときには押さえたり引っ張ったりして手術の進行をスムーズにするのが、助手の役目である。

狭い部分の操作では、助手の手による展開が大きく視野を確保することになるし、出血があり見えにくい術野では、出血をていねいに吸引することで、視野が確保される。

そのためには、ある程度術野に手を出す必要がある。しかし、術者の邪魔になってはいけない。術者が進む先に助手が手や道具を出して妨げることや、術者がせっかくきれいに進めている術野を散らかすのは良くない。

術者と助手のタイミングも重要である。組織を剥離するときには、術者が引っ張るのと反対方向に助手が引っ張ってくれると、剥離しやすいことが多い。

これを「カウンタートラクション」と言い、外科手術の基本であるだけでなく、様々な手技の基本でもある。たとえば点滴の針を刺すときには、刺す方向と反対に皮膚を引っ張るとよい。

また、術者は手術の進行や今現在手術操作を行っている内容について、ときどき不安になることもある。術前画像ではどうだったか不安になることもある。

そんなときに話かける相手は、たいてい助手である。助手は術者以上の情報を仕込んでおき、的確に答える必要がある。

術者によっては、あまりじっくりとは術前画像をみて検討したり、綿密に血管の走行を予測したり、何回も頭の中でシミュレーションしたりしないこともある(それでも経験豊富な術者は、術野をみながら理解して安全に進めることができるのでご心配なく)。

助手としては、臆病なまでに術前画像をよく見て、何がどうなっているのか把握しておく必要がある。そして、術者からの問いかけにサッと答えるのだ。

また、術者は手術の進行具合や難易度について術中の所感を述べることがあるので、そんなときは「そうですねー」などと相手をするとよい。

ということで、上記で述べた「助手の心得」をまとめると以下のようになる。

助手の心得①:術者の補助をする。

助手の心得②:術者の邪魔にならない。

助手の心得③:術者の相手をする。

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・・・こんな当たり前の話は誰でも知っているので、「さらに上を目指す助手の心得」を考えてみた。(時と場合にもよるので、あくまでも安全第一に考えられたい)

助手の心得①+:自分ならどうするか考えておく、考えながら手術をみる。

助手の心得②+:邪魔になることを恐れず、何でも手を出してみる。

助手の心得③+:術者に意見する。

まず、自分が術者として執刀するつもりで、手術を考えてみることだ。加えて、手術は自分でするものと考えないと、責任感が生じず上達しないと思う。

「責任感」といっても、「なにかあったときに責任をとる」の結果に対する責任(accountability)ではなく(それは術者にある)、「その患者さんのことについては、私にお任せください」の何かをする責任(responsibility)のほうだ。

自分なら、手術はこう考えて、このように進めて、このように仕上がるだろう。術前画像などをよく見て、自分なりに考え、術者の進行と比較する。

同じであればまずまず。術者の進め具合で難しそうであれば、自分の考えた進行が良かったのかもしれない。

まあこれは、術前検討会などで意見を言っておくのが最良と思われる。

そして、邪魔になることを恐れず手を出すこと。術野に入った手や、その手の持つ道具の存在感、距離感、あるいは術者の手や道具との距離感や干渉の具合は、実際に手を出さないとつかめない。

最初は邪魔になるかもしれないし、術者も術中は気が立っていることもあるから、怒られるかもしれない。

しかし、よほどとんでもなく手術の進行を妨げるようなことは、まずない。それよりも、最初は怒られてもめげずに手を出すようにすると、次第に手の出し方も上達する。そして自分が術者となったときの手技の上達にも直結するだろう。

術者に意見することは、なかなか難しいし、機会も少ないだろう。しかし、助手が綿密に術前画像を見て、血管の走行や組織の形を把握していることにより、術者の操作を助けることもある。

心得③で言ったように、術者になにか話しかけられたときに術者と同感なら「そうですねー」でいいが、「いやちょっと違う。こっちではなくそっちなのでは」などと感じたら、言ってみてもいいのではないか。

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最後に、手術は一種の職人技である。昔から「技を盗む」などと言われてきたが、技術はある程度マニュアル的に教えられることもあれば、「見ててくれ」としかいいようのない「経験知」や「暗黙知」もある。

助手は、術者を補佐するかたわら、自分の成長のために術者の技を盗むべく、術者の良い点、批判できる点を見ておくべきだと思う。

そして、この話はなにも外科医の手術に限らず、「技術」に恃(たの)む職業であれば何でもあてはまるのではないかと思う。

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